記憶は、思い出してこそ意味がある

記憶には、「記銘・保持・想起・再固定化」という流れがあります。
「記銘」は前頭葉でのワーキングメモリ、「保持」は海馬や側頭葉での長期記憶、想起は思い出すことです。(ちなみに「再固定化」とは、想起することによって、記憶が「新しい形」で保持しなおされること)

受験勉強で蓄えた知識も、それをアウトプットできなければ意味がありません。試験とは、脳内にある記憶を外に出すことによって、確かに知識を持っているということを証明する場です。もちろん応用力も問われます。ただし応用力といっても、「基礎的な知識」を記憶していてこそ解けるわけです。

さて、中学や高校の中間・期末テストなどでは、勉強してきたことを、どうしても思い出せないことがあります。これには2つの対策法があります。

  • リラックスする
  • ふだんの勉強方法を工夫する

この2つは、どちらかいっぽうではなく、両方を行なってこそ、試験中に記憶を思い出す効果を発揮できます。

気持ちをリラックスさせよう

試験というと、普段とは違った状況にあるので、正常な思考が働きづらくなります。
「何だったかな??」と考えれば考えるほど、ますます思い出せなくなり、頭が真っ白になるものです。

これは、なぜかというと、前頭葉にあるワーキングメモリが「試験の緊張感」に占領されてしまうからです。
前頭葉とは、いってみれば「意識」の部分。そのため意識が緊張するほど、また無理に思い出そうとするほど、大脳新皮質の「側頭葉」や大脳辺縁系の「海馬」にある記憶を呼び覚ましにくくなります。つまり潜在意識から意識へと、知識を引き出しづらくなります。

ワーキングメモリはパソコンのメモリのように、非常に容量が少なくできているので、何か気になることがあると力を発揮できなくなるのです。

悩み事があったり、気になるテレビがあると、すぐに勉強の集中力が途切れがちになるのは、そういったことで前頭前野のワーキングメモリが「いっぱい」になってしまうからです。恋愛でもそうです。恋愛感情で前頭連合野のワーキングメモリが満たされてしまうと、勉強が手につかなくなります。

同様にテストの最中に、記憶を思い出すことに意識を集中しすぎると、ますます緊張感でワーキングメモリがいっぱいになってしまい、悪循環になります。このようなときは、何回か大きく深呼吸してリラックスしましょう。そして、「とりあえずは今、思い出せなくても構わない」という気持ちになることです。そうすると、ワーキングメモリの緊張感も解けてきて、ふとした瞬間に思い出すものです。これは訓練しだいで、できるようになります。要は「意識の置きどころ」ですね。

寝よう寝ようとする人が、なかなか寝れなくなるように、忘れよう忘れようと努力する人が、かえって強烈に記憶に刻みつけてしまうように、逆に作用してしまいがちなのが人の脳の難しいところです。赤面症やどもり、あがり症なども同様ですね。受験への不安感も、「不安であってもいい」と思えば、和らぐものです。

ふだんの勉強方法を工夫する

試験中に記憶を思い出すためには、緊張感を和らげてリラックスすることが有効ですが、普段の勉強方法も大事です。ここができていないと、いくらリラックスを心がけても、思ったように記憶を引き出せないものです。

学校や模試の試験会場などで、どうしても記憶を思い出すことができない人は、ふだんの学習を見直してみましょう。たとえば単体の記憶として覚えずに、なるべく関連付けて覚えるようにすると、一つの記憶を手掛かりに、芋づる式に記憶を引き出すことができます。連想記憶法ですね。関連する項目が多いほど、引っ張り出す「きっかけ」が多いわけで、それだけ試験中に思い出す確率が高くなります。

また海馬にあるうちは、記憶が不安定なので、本番の試験で、すぐに思い出せないかもしれません。
海馬には1か月くらい留まっているので、それより短い、覚えたての記憶は不安定というわけです。とうぜん一夜漬けとか徹夜の試験勉強は、記憶があいまいなので、思い出しにくいという特徴があります。

やはり、普段からコツコツと予習と復習を積み重ね、しっかりと側頭葉などの長期保管庫に格納しておくこと。それが一番、無難です。長期記憶として脳に定着していれば、比較的簡単に前頭葉からの指令で、ワーキングメモリに持ってくることができます。

記憶というものは、覚えたてよりも、ある程度時間が経過したほうが思い出しやすくなるものです。
これをレミニセンス効果といいます。記憶は一定期間寝かせたほうが、思い出す確率が高くなるということは、心理学的にも証明されているわけですね。これは、睡眠による記憶の整理や定着がかかわっているといわれています。睡眠をはさむことによって、長期記憶化が進むわけです。

ふだんと違った状況をつくる

そのほか記憶を思い出すテクニックとして、覚えるときに「特異な状況をつくる」方法があります。
たとえば何かを暗記するときは、コーヒーを飲む。すると試験中に、そのコーヒーの香りや味を思い浮かべるだけで、それがトリガー(きっかけ)となり、暗記したことが芋づる式に思い出される可能性が高くなります。

べつにコーヒーではなくても、アロマテラピーでもバラの香りでもいいですし、ねじり鉢巻きをしてもよいのです。要は暗記するときだけ「特別な状態」にして、試験のときに、その状態を思い出せるようにすればいいわけですね。

ですから暗記するときは、いつでも蛍光ペンや赤ボールペンを手に持つように習慣づけることでもよいわけです。暗記する以外のときは、不用意にそのペンを持たないようにします。そして試験のときは、机の前にペンをだし、軽く握ってみる。たったそれだけで、暗記に努力してきた状況がよみがえってきて、前頭葉を占領していた緊張感が、当時の状況や風景に入れ替わります。すると、思い出しやすくなるというわけです。

こういった効果を文脈依存記憶といいます。
これは、自分が置かれている状況にもっとも適した記憶が、優先的に思い出されるという心理効果。トイレで思いついたアイデアは、トイレから出ると忘れがちです。どうしても思い出せないと悩んでいても、またトイレに入ると思い出す。そういった心理効果です。

デジャビュ(既視感)は、この心理効果が働いた結果、脳内のもっとも類似した記憶を引き出すためとも言われています。実際には来たことはなくても、似たような記憶を脳内から優先的に引っ張り出すために、そのように感じてしまう可能性が高いわけですね。

何かを取りに行った年輩のかたが、その部屋に入ったとたん忘れてしまうのは、その部屋特有の文脈依存記憶が発動するため、「何を取りに来たのか」を忘れてしまうものと思われます。加齢によって前頭葉の機能が衰えてくると、このようなことが頻繁に起こってくるわけです。これは老年性記憶障害といって生理的なものであり、まったく問題ありません。ただし、「何かを探すために、ここに来た」ということまで忘れてしまい、”何でここにいるのか”が分からなくなると、認知症の危険が出てきます。

暗記したときの状況を試験中に再現できれば、文脈依存記憶が働き、記憶した英単語のスペルや熟語、構文、あるいは歴史(日本史や世界史)の年号、人名、事件名などを思い出しやすくなるのです。