短期記憶と長期記憶の2種類がある

記憶には種類があります。中学受験や高校受験、大学入試においては、「比較的長く覚えていられるもの」が「記憶」であるという認識があります。2、3日ですぐに忘れてしまったり、試験当日まで持続しないような知識では意味がないからです。脳科学では、そのように長く覚えていられる記憶のことを「長期記憶」と呼んでいます。脳の保管庫に格納された状態です。パソコンでいえば、ハードディスクに記録された状態に当たります。

それに対して、数秒から数分で忘れてしまうものを「短期記憶」と呼んでいます。
だれでも教科書や受験参考書を読んだ直後は、数秒間なら簡単に覚えていられるでしょう。しかし「短期記憶」ですから、持続しない記憶です。パソコンでいえば、電源を切れば消えてしまう「メモリ」に相当します。

試験勉強においては、短期記憶をいかにして長期記憶に「変換」するかが肝になります。これこそ、巷のあらゆる記憶術・暗記法が目指している「共通の目標」といえます。

このように一言で記憶といっても、短期記憶と長期記憶があります。脳科学では、そこからさらに細分化して、以下のように定義しています。

  • 短期記憶
    • 感覚記憶
    • ワーキングメモリ
  • 長期記憶
    • 宣言的記憶 (陳述記憶)
      • 意味記憶
      • エピソード記憶
    • 非宣言的記憶 (非陳述記憶)
      • 手続き記憶
      • プライミング記憶 (パソコンのキャッシュのようなもの)
      • 情動記憶 (扁桃体に蓄積される、感情をともなった記憶)

記憶のプロセスとは?

記憶とは例えてみれば、「狭い入口」から入って、洞窟の奥深くに入っていくようなものです。
なかには、入り口がせまいので、洞窟の中をのぞくだけで入らない人もいるでしょう。ここでいう「人」とは、外界から入ってくる「知識」だと思ってください。以下も同様です。

入り口がせまいので、一度にたくさんの人は入れません。一人ずつ並んで、しかも背中をかがめて、ようやく通れる狭さです。これが記憶の実態といえます。中に踏み入らないこともあれば、もし中に入るとしても一気には入れない。さて、記憶は4つのプロセスを通ります。

  • 記銘 → 保持 → 想起 → 再固定化

簡単にいうと記銘とは、一時的に覚えることです。ただし神経衰弱のカードや電話番号を、とりあえず記憶するときのように、すぐに忘れられてしまう記憶です。つまり短期記憶の段階です。

保持とは、短期記憶を長期記憶にすることです。ただ1度見ただけでは数分で忘れてしまうので、何度も脳内で反復して繰り返します。これによって長期記憶(正確には中期記憶)になります。この段階では、まだ「長期記憶の初期段階」のため、1日もすれば半分以上を忘れてしまいます。受験勉強では一度「保持」したことを、長く忘れないためには、最初の1か月間は何回か復習を繰り返す必要があります。その後も、さらに1か月後、3か月後、半年後と反復していくことによって、より強固な長期記憶として脳内に定着していきます。

しかし一度は長期記憶として保管できても、それを「想起」、つまり思い出せなければ意味がありません。
アウトプットできなければ、どんなに多くのことを覚えても、宝の持ち腐れです。つまり高校受験や大学センター試験、各種資格試験などでは、インプットしたことをアウトプットしていく訓練も欠かせないわけです。書こうと思ったら、意外と書けない。過去問をやってみたら、意外と解けない。このようなことを経験したりします。
記憶は、アウトプットできてこそ意味があるということを忘れないようにしましょう。

最後の再固定化は、受験生はとくに意識する必要はないかと思いますが、いちおう挙げておきました。人は何かを思い出すと、その記憶が不安定になるという現象です。ですから思い出すということは、記憶にとって不可欠ではありますが、思い出した瞬間に「記憶の干渉」をうけて記憶が薄まってしまう危険がともないます。このことから、一度は長期記憶にできた知識でも、たえず復習によって磨き続ける必要があるわけです。

短期記憶は記憶の入り口

記憶の種類には短期記憶と長期記憶があると述べました。短期記憶とは「記銘」の段階であり、人が外界から情報を取り入れるさいに、はじめに通過する入り口になります。外界からの情報は、視覚(目)、聴覚(耳)、嗅覚(鼻)、触覚(肌、筋肉など)、味覚(舌)という五感から入ってきます。このなかで受験勉強に関係する感覚は、視覚が大半です。そのほか、文章を音読したり、先生や講師の話を聴いたり、英語のリスニングなどでは聴覚からも情報が入ってきます。

これらの情報に対して、まずは「感覚記憶」が使われます。目を閉じたとしても1秒間くらいは、目をあけていたときの光景が残るはずです。また耳にした言葉や音も、5秒間くらいは耳朶に残っているはずです。たった数秒間の記憶の保持ですが、これも立派な記憶の仲間。というよりも、この感覚記憶がなければ、さらなる短期記憶も、ましてや長期記憶もありえません。たとえば耳をふさいで目を閉じてしまえば、外界からの情報が遮断されます。情報自体入ってこなくなります。これほど、感覚器官自体での記憶というものは重要です。

この感覚記憶は、イメージ力や右脳の能力にも通じるものがあります。一度見たものを写真記憶のように覚えていられる人は、記憶力も抜群ということです。もともと狭い「記憶の入り口」を、できるだけ広くするトレーニングを積むことによって、記憶力を高めることができます。これは後で述べるワーキングメモリや海馬でも同様です。狭い間口を広げることが、記憶力増強のポイントということです。

ちなみに人が風景を楽しめるのも、音楽を連続した音律として感じられるのも、感覚記憶があればこそです。一瞬前の光景や音律を記憶しているからこそ、「連続したもの」として捉えられるわけですね。

ワーキングメモリは短期記憶の第2段階

感覚記憶は、車窓から眺める風景です。
流れる光景は、いちおう目の網膜に映し出されますが、どんどん忘れ去られていきます。しかし、なにか興味のある看板があったり、魅力的な人が目に入ると、そこに注意が向きます。すると、今度はワーキングメモリという記憶領域が使われます。ワーキングメモリとは、前頭前野で行われる記憶。作業記憶ともいわれるように、何か必要な作業をしたあとは、不要になるので忘れ去られるという特徴があります。

感覚記憶は、視覚で1秒、聴覚で5秒ほど持続しますが、前頭葉のワーキングメモリは数秒から数分間もちます。たとえば車窓から眺めている場合だと、何か興味のあることを見たときですね。しかし、たいしたことでなければ、じきに忘れてしまいます。

ただ、よっぽど興味を引くような光景であれば、それは一気に長期記憶にまで到達し、何年たっても忘れない記憶になります。受験勉強では、興味や好奇心をもって取り組んだ方がよいとされるのは、短期記憶が長期記憶に変換されやすいからです。興味のあることは、一気に長期記憶化されるのです。

そうはいっても、受験勉強は無味乾燥なことが多いですから、なかなかそのようにいきません。そこで何度も反復する必要があるわけです。あるいはイメージや想像という記憶術の手法が用いられるのも、そうしたほうが「印象に残る」からです。つまり、車窓から何か興味のあるものを目にした時のように、一気に長期記憶化できる可能性が高まるわけです。上手な語呂合わせを作ったときなどがそうですね。

ワーキングメモリは、「マジカルナンバー7」といわれるように、数字でいえば7個±2個くらいしか一度に覚えられません。それほど容量が少ないわけです。先ほど間口の狭い洞窟の例をあげましたが、感覚記憶もワーキングメモリも、一度にたくさん覚えられないのです。ですから、一度に覚えられる量を増やして、間口を広げる訓練をすることが、効果的な記憶術のトレーニングとなります。

長期記憶は海馬から始まる

感覚記憶の段階で何かに注意を向けると、それは前頭葉に入り、ワーキングメモリとして数秒から数分間とどまります。しかし、よほど興味を引くもの、印象深いものでもないかぎり、すぐに忘れ去られてしまいます。神経衰弱のカードも、遊び終わったら忘れてしまうように・・・。

そこで記憶を、より長く脳内に定着させる作業が必要になります。それが反復です。
学んだことを何度も繰り返し、復習するわけです。脳は、強烈な印象があるものを「重要なもの」として、一気に長期記憶化します。しかし印象が薄いものは、何度も繰り返すことによって、脳に「重要なもの」であると認識させなければなりません。

この「重要か、そうでないか」の判断は、海馬(かいば)という部分が行なっています。
海馬は脳の奥の方にあります。進化の過程で初期のころに形成された、大脳辺縁系という古い脳の一部です。海馬は、すぐそばの扁桃体と相談しながら、記憶の重みづけを行なっています。扁桃体は本能と感情の元の部分なので、自分に有利かそうでないか、好きか嫌いかなどを元に、記憶の重要度を判断しています。

長期記憶(正確には中期記憶)が海馬にとどまる期間は、およそ1か月。
そのあいだ、忘れないように反復を繰り返すと、晴れて「本物の長期記憶」に昇格されます。海馬にあるうちは、いちおう長期記憶ですが、1か月以内に消える危険のある、不安定な状態です。この1か月をクリアすれば、海馬の記憶は、側頭葉をはじめとした脳の各所に分散して転写され、保管されます。

受験の勉強方法においては、最低でも海馬の段階をクリアして、側頭葉などの「大脳皮質」に保管すべきです。ぜんぜん記憶できないとか、記憶力が低くて悩んでいるという人は、1か月以内に繰り返さないことが原因です。最初の1か月は気を抜かずに復習していくことによって、長く忘れない記憶にできるのです。

なお前述したように、そのあとも1か月後、3か月後、半年後、1年後というように磨き続けることが大切です。ただし、時間がたつほどに「復習の間隔」は広げても大丈夫なので、時間がたつほどに楽になります。また、ある程度定着していることなので、繰り返すほどにスピーディーに学習できるようになります。記憶が鈍ってきたなという感覚(メタ記憶)があったら、すかさず復習してメンテナンスをしていきましょう。

長期記憶には2種類ある

さて最後に、長期記憶のそれぞれについて、かんたんに見ていきます。
長期記憶とは、海馬から先の記憶ですが、これには2種類があります。ひとつは宣言的記憶(陳述記憶)であり、言葉で説明できるような記憶。意味記憶(知識記憶)とエピソード記憶(経験記憶)の2種類があります。

意味記憶とは、○○は木、○○はりんご、といったように、自分の経験が関係しない知識のこと。
受験勉強で覚えることは、この意味記憶が主体になります。

いっぽうエピソード記憶とは、自分が経験したことにかんする記憶。
昨日、デパートに行って○○さんと出会った、などですね。記憶の特性として、意味記憶よりもエピソード記憶のほうが、長く脳内にとどまりやすくなります。また意味記憶は何か「きっかけ」がないと引き出せないのにたいして、エピソード記憶は「きっかけ」が与えられなくても「突然」思い出すことがあります。

歩いている時に、いきなり「万有引力の法則を発見したのはニュートンだ」と思い出すことはないわけです。
もし思い出したという人がいたとしても、最近勉強したという「経験」があるためです。むかし習った意味記憶は、とつぜん脳内から出てきません。

これにたいしてエピソード記憶のほうは、歩いているときに突然、昔経験したことを思い出したりします。
そのため意味記憶を、脳の奥深くに引っ込んでいるということから「潜在記憶」と呼びます。いっぽうエピソード記憶は、普通預金のように、いつでも取り出しやすい記憶であることから「顕在記憶」と呼んだりします。

なお、右脳記憶とかイメージ連想法という記憶術は、この2つのうちでは、エピソード記憶になります。
イメージするということは、想像のなかで体験しているからです。イメージ記憶が長く忘れないというのは、エピソード記憶だからであり、いつでも自在に取り出せる記憶となります。

ただ、同じイメージでも写真記憶のように、「見たままを”そのまま”覚える」的なもの、「意味をとくに考えない”機械的な記憶”」は、どちらかというと、すぐに忘れてしまうワーキングメモリの範ちゅうではないでしょうか。脳年齢とか脳活のテレビ番組で、一瞬見ただけの光景をクイズにしたものがありますが、一度覚えても、テレビを観終われば忘れてしまうはずです。つまり短期記憶です。

しかし、もしそこに「自分の感情=強烈な印象」、つまり扁桃体を介入させると、一転してエピソード記憶になり、「覚えやすく忘れにくい、しかも思い出しやすい記憶」になります。子供のころに見た強烈な光景などがそうですね。このように「同じ映像記憶」であっても、そこに感情が入るか否かで、まったく違った様相になります。記憶するさいは、しっかりと意味を理解して覚えたり、感情移入することがポイントになってくるのです。

言葉で説明できない記憶

さて長期記憶には、「言葉で説明できる記憶」以外に、どうしても言葉では説明できない記憶もあります。
それが非宣言的記憶(非陳述記憶)です。その代表選手は手続き記憶になります。手続き記憶とは、かんたんにいうと「体で覚える記憶」のこと。

自転車の乗り方は一度覚えると、ずっと忘れないように、手続き記憶は忘れにくいという特徴があります。
小学生のころに一度覚えた漢字の書き順も、ずっと忘れないものです。このような手続き記憶の特性を考えれば、英単語もできるだけ手書きして覚えたほうが、スペルを忘れづらくなります。

手が記憶しているという比喩が使われますが、実際には大脳基底核や小脳が関係しています。
そのほか歌でも、歌詞を読むだけではなく、じっさいに発声して何回も歌ってこそ、体に染み込んだ記憶になります。一度覚えてしまえば、何かをやりながらでも歌えるようになるのではないでしょうか。意識しなくても出力できる手続き記憶だからです。

このように長期記憶といっても、頭で覚える記憶と、体に覚えこませる記憶とがあります。
受験勉強では、意味記憶、エピソード記憶、手続き記憶を縦横に駆使して、すべてを活用していくことが、効果的に記憶力を高める方法になります。